良い施工業者・宮大工の選び方
前回のコラム「実際にあった施工業者選びの失敗例」では、施工業者選びで失敗した事例を3件ご紹介しました。神社やお寺を建て替えるときに失敗しないためにも、良い施工業者や工務店、宮大工の選び方をご紹介したいと思います。
(1) 過去施工した建物を実際に目で見る
まずは、依頼しようとしている業者が過去に建てた神社やお寺を実際に見ていただきたいと思います。建築について詳しく分からなくても大丈夫です。全体を見た時に、第一印象でどう感じるかが大事です。
腕の良い宮大工が建てたものなら、一見すれば、その建物に「輝き」を感じ取れるはずです。
そして、時間があれば、細部の仕事の丁寧さなども見るとよいでしょう。
普段から建物に興味を持って、数件の社寺建築を見ていくと、各所の違いがわかるようになり、より目が肥え、より正確に建物の良し悪しの判断ができるようになることでしょう。
また、常日頃から気にかけていると、「あそこのお寺は最近建て替えたようだ」「あそこの神社は建て替えてずいぶん立派になった」などの情報が入ってくるようになります。
このように、その業者がどんな建物を建てるのかは、実際に完成した建物を見ることで一番よく分かります。
とても手間暇のかかることではありますが、普段から、出来るかぎり、社寺建築を積極的に見て回り、建物の知識を蓄積していくことで、「選球眼」を養うことができます。
(2) 過去に施工した施主様の話を聴く
さらには、その業者が施工した神社仏閣の施主様のお話を聞くことができれば、依頼されたどういう業者だったのかがよく分かります。
もし、比較的最近に建物を建てた神社やお寺の施主様に話を聞くことができれば、その施工業者に決めるかどうかの一番良い情報が得られることでしょう。なぜなら、施主様の記憶が新鮮で、その業者や宮大工のことをよく覚えているからです。
当事者である宮司様や住職様から、施工業者や建物、工事の内容などの良かった点、良くなかった点について、お話を聞くのが一番ではないかと思います。もし、その施主様にお話を聴くことができれば、インターネットなどで調べるよりも、何倍も正確な情報が得られるでしょう。
(3) 良い施工業者は話をよく聴いてくれて、納得いくまで説明してくれる
そして、実際に施工業者を選び、営業担当者や宮大工などと会ったときに、良い施工業者かどうかを見極めるチェックポイントが二つあります。
- 1.その業者は、施主様の話をしっかりと聞いてくれますか?
- 2.その業者は、施主様が分らないことを、分かるまで説明してくれますか?
宮大工のほうが「私たちは専門家だから、言う通りにしていれば大丈夫です」などと言って、業者の言い分ばかりを押し付けるような時は、少し警戒したほうがよいかもしれません。その様な場合は、施工業者の都合を優先させている可能性があります。
昔ながらの腕の良い宮大工の職人と言えば、「変り者でいつも眉間にしわを寄せ、他人を寄せ付けない雰囲気が漂っている」というイメージでしょうか。人付き合いも苦手で、「施主様のご機嫌を伺う」などという姿勢は皆無です。まるで「施主は素人」「自分が教科書であり、自分の言う事がすべて正しい」という信条を持っているかのようです。それでも一般的には、そのような近寄り難い「頑固職人」こそ、宮大工の職人として優れていると思われてきました。
しかし、その弊害もあります。それは、施主様と職人との「意思の疎通が不十分になる」ということです。
「腕の良い職人に任せていれば大丈夫」というケースもありますが、全て任せた結果、施主様の希望する事が伝わらず、望んだ形と違うものが出来上がってしまう事も、少なからずあります。
いくら宮大工が社寺建築のプロであると言っても、お金をいただく商売である以上、お客様が、心から喜べるような「商品」を提供できなければ、「商売人」としては失格なのです。
やはり、施主様と職人との、綿密な打ち合わせやコミュニケーションはとても大切です。施主様の声に耳を傾ける姿勢を失ってしまえば、本当の意味で施主様が満足するような建物は出来ません。
もちろん、立派な社寺建築を建てるために、プロとしてどうしても譲れない部分、社寺建築の決まりごとはありますので、すべてお客様の言う通り、というわけにはいきません。しかし、商売である以上、お客様である施主様の都合を優先することは当然のことです。
宮大工としての立場から、良い施工業者選びのポイントを述べました。このコラムをご覧になられた方が、良い神社やお寺を建てられることを祈念しております。