実際にあった施工業者選びの失敗例
「社寺建築なら、宮大工に頼むのが一番」と考える方も多いかと思います。
しかし困ったことに、一言で宮大工と言っても、「宮大工の資格」や「宮大工認定書」というようなものはありません。実際には「私は宮大工です」と言われれば、お客様は「そうですか」と言うしかありません。
さらに困ったことに、建築物は一度建ててしまうと、簡単には「やり直し」ができないものです。技術や知識、経験が足りない業者が施工した場合、わずか数年で、様々な問題が発生することが多く見受けられます。しかし、このような問題が出たからと言っても「すぐに取り壊して新しい建物を建てましょう」と言うわけにはいきません。
私が実際に見聞きした具体例をご紹介しましょう。
失敗例(1) 数年後に内部構造の問題が発覚
一つ目は、「うちなら安くできますよ」という業者の言葉を信じて、業者の腕前を確認せずに工事を発注してしまった失敗事例です。工事費は安く済んで喜んだものの、完成してから数年で建物正面の軒先が下がり、屋根の線が崩れてしまいました。
「屋根の線を修理してもらいたい」とのことで、当社にご相談をいただいたのですが、このような事例では、内部構造の問題なので、屋根の大部分を剥がして、小屋組みからやり直す、大規模な修繕工事が必要になります。
このお客様は、またご寄付を集めることが困難だということで、修理を諦めました。
失敗例(2) 木材の知識不足
二つ目の事例は、木材についての知識が足りない素人業者に依頼してしまったために、雨風に晒された板材にひび割れが出て、浮いてきてしまった神社の話です。しかも、はめ込んである部材のひび割れだったので、広い範囲を壊して交換するしかありませんでした。
もし、腕の良い宮大工であれば、雨風に晒される板材は、雨風に強い桧やヒバの厚い板を使うことでしょう。あるいは、都合により薄い板を使う場合でも、痛んだ時に交換ができるように細工をしておくことでしょう。
同様に、木材の知識が足りない業者が施工したために、観音開きの扉が閉まらなくなってしまったケースもあります。この場合も建て込みではめてあるものなので、広範囲を壊さないと交換できません。その分だけ、修理に時間がかかりますし、修理費用も高くなってしまいます。
失敗例(3) 基本設計の力不足
最後の失敗例は、神社仏閣の美しさを醸し出す基本設計についての知識が足りない業者に依頼してしまったために起きた失敗事例です。
完成した時には気が付かなかったが、改めて他の建物と比べてみると、床面積のわりに、建物が高すぎて見た目のバランスが悪いことが分かりました。これは、設計段階での根本的な問題ですから、後から改修することはできず、最初から建て直すしかありません。
失敗談から学べること
これらの失敗は、もちろん、施工した業者の責任なのですが、出来上がってしまっては「後の祭り」であり、取り返しがつきません。
このような問題を抱えてしまった施主様から修理のご相談を受けることも少なくないのですが、当事者である施主様や、関係者の皆様の悔しさは、あまりにも大きなものです。
多くの方々からの善意で集まった、大切な浄財を無駄にすることがないように、施主様には、「失敗しない神社建築」についての知恵を持ち、良い業者を選定する「目」を持っていただきたいのです。その切なる願いから、この記事やプレゼントの小冊子を書きました。
では、どうすれば良い業者を選ぶことができるのでしょうか。業者探しの具体的な方法として、すぐに思いつくのは、「インターネットで調べること」でしょうか。
インターネットで建築業者のホームページを見ることは、候補になる業者を複数ピックアップするためには、とても有効です。ですが、その情報だけをすべてとして判断することは避けてください。
なぜなら、基本的に、ホームページはその会社が自社を紹介するために作ったものなので、「良いこと」しか書いていないからです。
良い施工業者選びのポイント
宮大工として正直に良い施工業者選びのポイントを述べますと、次の3点です。
- 1.過去に施工した建物を実際に目で見る
- 2.過去に施工した施主様からの評判を聴く
- 3.よく話を聴いてくれる業者を選ぶ
これらのことについては、次の記事で詳しく述べたいと思います。