宮大工と普通の大工の違い
よく「宮大工と普通の大工さんとは、どこが違うのですか?」と聞かれることがあります。
その答えは「専門分野の違い」と言えるでしょう。「餅は餅屋」と言われるように、住宅大工は家族が快適に住むための住宅を建てる専門家です。一方、宮大工は、神様・仏様が宿られる社寺建築の専門家です。そのために必要なものが、秩父夜祭で学んだ宮大工の「先人の技」でお話したような、伝統にのっとった高い技術力なのです。
もちろん「優れた住宅大工が社寺建築の工事もできる」というケースも少なからずありますが、常日頃から社寺建築の仕事に専心している宮大工とは、職人としての熟練度にどうしても差が出ます。
宮大工が建てる本物の社寺建築
では、そもそも「本物の社寺建築」とはどういうものでしょうか。
「見るからに格好が良い、細かく規則正しく、正確に収まる軒先の各部材、美しい曲線の屋根、煌びやかな装飾、金物や彫刻。」見た目の印象は非常に華やかで、目を見張るものがあります。
そして、やはり本物は耐久性に優れています。数百年経ってもビクともしない堅牢さを持っているからこそ、その美しさを後世に伝えることができるのです。そのように、「美しさ」と「強さ」を兼ね備えているのが本物の社寺建築と言えるのです。
社寺建築を建てるときの決まりごと
また、何百年も遺っていく神社仏閣を造るには、そのための「決まりごと」があります。それは社寺建築を建てるにあたり、守るべきルール、基準とも言えるもので、「木割り(きわり)」「規矩術(きくじゅつ)」などがあります。
木割り(きわり)
木割りとは、各部材の寸法を割合で示した基準値のようなものです。例えば、○○という部材は柱の太さの1割にする。○○は垂木の2倍にする。というようにほとんどの部材の寸法は別の部材に対しての割合で決められています。
規矩術(きくじゅつ)
また規矩術とは、一言でいえば大工が使う「差し金」(90度に曲がっている金属製のものさし)による計算法です。木造建築においては様々な部材を縦・横・斜めに組み合わせて建物が出来上がるわけですが、それらの寸法や角度を差し金一つで計算する智慧と技術が規矩術です。
さらには、歴史上の時代ごとの様式、地域、宗派、主宰神による様式の違いなど、考慮するべきルールや要素が数多くあります。とても複雑ではありますが、それらの決まりごとやルールを熟知し、決まりごとに従って、木材を加工し、組み上げる高い技術は、実際に一般住宅を建てるには必要のない部分だと思います。
そして、それこそが、宮大工ならではの特殊技術であり、一般住宅の大工との大きな違いと言えるでしょう。